早漏は訓練で治る可能性がある
早漏(PE:Premature Ejaculation)は、男性の性機能障害のなかで最も多いとされるものです。
実際、日本性機能学会の臨床研究促進委員会において20歳から79歳の日本人男性6,228人に対して2024年に行われた調査では、23.4%(約4.3人に1人)の男性が早漏で悩んでいると回答しました。
一般社団法人日本性機能学会プレスリリース https://www.atpress.ne.jp/news/40099
しかし、射精のコントロールは、適切なトレーニングによって改善できることが、複数の科学的研究によって示されています。根性論ではなく、泌尿器科医や性科学者が発表した論文に基づいた「科学的なトレーニング」をご紹介します。
本記事は「実践」に特化した内容です。早漏の原因や改善方法の全体像についてはこちらを先にご覧ください。
骨盤底筋(PC筋)トレーニング:射精の「ブレーキ」を強化する
論文が示すPC筋トレーニングによる効果
2014年、ローマ・サピエンツァ大学のPastore博士らが発表した研究では、生涯にわたる早漏を持つ40名の男性(19〜46歳)を対象に、12週間の骨盤底筋リハビリプログラムを実施しました。
結果は以下の通りとなり、リハビリ後の平均時間は約4.6倍にまで伸びました。
- 開始時の平均射精時間:31.7秒
- 12週間後の平均射精時間:146.2秒(約4.6倍に延長!)
- 40名中33名(82.5%)が射精コントロールを獲得
さらにPastore博士らが後に発表した長期追跡研究(122名対象)では、12週間プログラム終了後も24〜36ヶ月にわたってコントロール能力が維持されたことが確認されています。副作用がなく、費用もかからない点が、SSRIなど薬物療法と比較して大きなメリットとして評価されています。
具体的に骨盤底筋リハビリプログラムで何をした?
- フィジオキネシオセラピー(physio-kinesiotherapy)
骨盤底筋の収縮を「感じる・動かす」ことへの気づきを高めるための理学療法です。筋肉の場所を意識し、意図的に収縮させる感覚を習得することが目的です。 - 電気刺激(electro-stimulation)
会陰部(睾丸の袋と肛門の間のエリア)に電気刺激を与えることで陰部神経(pudendal nerve)を直接刺激し、恥骨直腸筋(puborectalis muscle)を通じて尿道括約筋を収縮させる方法です。 ScienceDaily自分では上手く動かせない筋肉を、電気的に強制収縮させて「正しい感覚」を体に覚えさせます。 - バイオフィードバック(biofeedback)
会陰部の筋収縮と泌尿生殖括約筋のコントロールを、患者自身がモニターで確認しながら学ぶ手法です。 センサーを会陰部に当て、筋肉が正しく動いているかをリアルタイムで画面上に表示させながらトレーニングします。
なぜ骨盤底筋が重要なのか?メカニズム解説
射精が起きるとき、陰茎周辺にある「球海綿体筋」と「坐骨海綿体筋」が自動的に収縮します。つまり、意識しなくても射精反射は起きてしまうのです。骨盤底筋(PC筋)トレーニングの目的は、この射精反射をコントロールする「ブレーキ」の役割を担う筋群を意識的に動かせるようにすることです。
Pastoreらの研究では、積極的な会陰部の筋肉コントロールが、球海綿体筋・坐骨海綿体筋の意図的な弛緩を促すことで、射精反射を抑制できることが示されています。
今回紹介している骨盤底筋リハビリプログラムで行われた電気刺激やバイオフィードバックは専用の医療機器が必要なため、自宅では完全再現できません。ただし、フィジオキネシオセラピーとバイオフィードバックは「射精コントロールに関わる筋肉の構造を認識・訓練する」ことを目的としており、この感覚的な気づきの部分は自宅でのトレーニングでもある程度代替できると考えられています。
次章では、自宅でできるトレーニングを紹介します。
【図解】PC筋の正しい鍛え方
まずPC筋の場所を確認しましょう。
PC筋とは骨盤底筋群の一部である「恥骨尾骨筋(Pubococcygeus muscle)」の略称です。この筋肉は、骨盤の底に位置し、尿道、膣、肛門などを支える重要な役割を担っています。

PC筋が衰えたり、そもそも筋力が弱かったりすると射精のコントロールができないことがあります。
ただし、実際のトレーニングでは尿を止めるイメージではなく、「肛門を奥に引き上げる」感覚で行うのが正しい方法です。

- 仰向け、座った状態、立った状態など、楽な姿勢を取る。
- 尿道、肛門を締めるように、PC筋を意識して収縮させる。
- 5秒ほど収縮を維持した後、ゆっくりと力を抜いてリラックスさせる。
- これを10回程度、1日に数回繰り返す。
このトレーニングは場所を選ばず行うことができるというメリットがあります。射精のコントロールを行うことができるように、毎日少しずつ行い、習慣づけていきましょう。
PC筋を締める際に、お腹に力を入れて「いきむ」のはNGです。腹筋や臀部(お尻)に力が入っていないかを確認しながら、骨盤の内側だけをそっと引き上げる感覚を大切にしてください。呼吸は止めずに、自然に行いましょう。効果が出るまでに4〜6週間程度かかるのが一般的ですが、正しいフォームで続けることが最重要です。
マスターベーションでのトレーニング:脳と神経を「刺激」に慣らす
射精コントロールの問題の多くは、脳がある一定の刺激に対して「射精反応」を過剰に学習してしまっていることにあります。マスターベーションを「訓練」として活用することで、脳の閾値(反応が起きる基準)を引き上げることができます。
① セマンズ法(スタート&ストップ法):古典にして最強の手法
1956年、米国の泌尿器科医ジェームズ・セマンズ博士が発表したこの方法は、今も行動療法の基本として世界中で用いられています。トルコのLIV病院で行われた研究(Comparison of the results of stop-start technique with stop-start technique and sphincter control training applied in premature ejaculation treatment)でも有効性が報告されています。
【実践方法】
- マスターベーションを行い、「イキそう」と感じたらすぐに動きを止める(=スタートアンドストップ)
- 射精感が落ち着いたら(30秒〜1分)、再び刺激を再開する
- これを3回繰り返し、4回目でフィニッシュする
- これを週3〜4回、継続することで脳の興奮閾値が上がっていきます

「自律神経(交感神経)の暴走を意識的に抑える」という点で、このトレーニングは神経系の再学習を促します。すぐにやめられる、お金がかからない、一人でできるという意味でもトレーニングを始めるハードルが最も低い手法です。
② スクイーズ法(マスターズ&ジョンソン法):物理的に射精感を抑える

性科学者のマスターズ&ジョンソンが1970年代に提唱した方法です。スタートアンドストップ法と似ていますが、止めるだけでなく「亀頭付け根を圧迫する」ことで射精感を物理的に鎮める点が特徴です。
- 「イキそう」になったら刺激を止め、亀頭(グラン)の付け根を親指と人差し指でしっかり挟んで数秒間圧迫する
- 射精感が和らいだら刺激を再開する
- スタートアンドストップ法と組み合わせて使うと効果的

ただし、パートナーとの性行為中に行う場合は事前に理解を得ておくことが大切です。
③ 陰茎根部マスターベーション(PRM法):亀頭への刺激を変える最新手法
これは近年発表された比較的新しい手法です。2019年に中山大学(中国)の研究チームがアジア男性学誌(Asian Journal of Andrology)に発表した研究(Regular penis-root masturbation, a novel behavioral therapy in the treatment of primary premature ejaculation)がきっかけで注目されました。
【発想の転換:なぜ「根元」なのか?】
通常の自慰行為は亀頭周辺(感度の高い前方2/3)への刺激が中心です。そのため、脳は「亀頭への強い刺激=射精」という回路を学習してしまいます。一方、陰茎の根元(後方1/3以下)は感度が相対的に低いため、根元への刺激で慣らすことで、膣内の刺激に対する耐性が高まると考えられています。
【実践方法】
- 親指(または両方の親指)を陰茎の根元(勃起状態の1/3以下の位置)に当てる
- 上下にこすったり、回転させるように摩擦を与える(亀頭には触れないようにする)
- 週3回を目安に3ヶ月間継続する

【論文の結果】
- 中山大学の初期研究(9名):3ヶ月後、IELTが中央値60秒から180秒に延長(P=0.018)
- 2023年のトルコ研究(35名対象):IELTが平均50.4秒から192.4秒へと大幅に延長(P=0.035)
- 広西医科大学の比較研究(2020年)では、ケーゲル体操(PC筋トレ)よりもPRM法のほうがIELT延長効果が大きいという結果も
なお、5名中の参加者に「陰茎根部への刺激では射精しにくい」という副次的な効果も確認されており、これは治療目的としては望ましい変化と捉えられています。サンプル数はまだ少なく今後の大規模の臨床試験が必要ですが、現時点で最も注目すべき最新の行動療法のひとつです。
④【新たな可能性】床オナ(うつ伏せマスターベーション)は早漏に効果的?
「床オナ」とはうつ伏せの姿勢で行うマスターベーションのことです。2023年、中山大学の同チームが「Short-term effect of the prone masturbation training on premature ejaculation」を発表し、早漏への短期的な効果を報告しました。
【研究の概要】
- 21名が参加し、12週間のうつ伏せマスターベーション訓練を実施(完了者10名)
- IELTの中央値が60秒から105秒に延長(P=0.011)
- 10名中6名(60%)がIELT延長を報告
⚠️ 重要な注意点:床オナが引き起こすリスク
うつ伏せマスターベーション(床オナ)は、陰茎に対して異常な圧力と摩擦をかける行為であり、慢性的に続けることで陰茎の神経損傷、勃起不全(ED)、あるいは通常の性行為では射精できない「膣内射精障害(遅漏)」を引き起こすリスクが指摘されています。論文自体も「今後の大規模研究が必要」と結論付けており、安易に日常化することはお勧めしません。この研究はあくまで「可能性の示唆」として捉えてください。
⑤ トレーニングカップの活用:実戦に近い感覚で慣らす
スタートアンドストップ法やPRM法に慣れてきたら、次のステップとしてTENGAなどのオナホール(男性用マスターベーター)を使ったトレーニングを組み合わせるのが有効です。手で行うマスターベーションと実際の膣内では、与えられる刺激の質が大きく異なります。実際の挿入に近い「バキューム感」や「密着感」に対してあらかじめ慣らしておくことで、本番での射精コントロールが向上しやすくなります。これはスポーツでの「実戦練習」に近い発想です。現状では直接的な論文エビデンスはありませんが、行動療法の観点から理にかなったアプローチといえます。
生活習慣・運動がもたらす効果:トレーニングの土台を整える
有酸素運動と早漏の関係
運動と早漏の関係についても、近年研究が進んでいます。2018年に発表された研究(Is There Any Association Between Regular Physical Activity and Ejaculation Time?)では、定期的に運動する男性グループと座りがちな生活をする男性グループを比較した結果、運動習慣のある男性のほうが早漏の頻度が有意に少ないことが示されました。
また動物実験(ラット)では、有酸素運動が脳幹の縫線核における「セロトニン(5-HT)」と「BDNF(脳由来神経栄養因子)」の発現を高めることが確認されています。射精タイミングの調節にはセロトニン系の働きが深く関与しており、有酸素運動がこの系統を活性化することで、薬(ダポキセチン:セロトニン再取り込み阻害薬)に近い作用を生み出す可能性が示唆されています。
【おすすめ運動の目安】
- ジョギング・早歩き・水泳などの有酸素運動を1回20〜30分、週3〜5回
- 下半身(特に骨盤周辺)の血流改善を意識したストレッチも補助的に有効
マインドフルネス(瞑想):「焦り」を客観視する技術
2010年代後半から注目されているのが「MBCT(マインドフルネス認知療法)」の早漏への応用です。「イキそうだ!」という焦りや不安は交感神経を活性化させ、射精反射を加速させます。マインドフルネス瞑想では、この「焦りの感覚」を客観的に観察することで、自律神経の暴走を防ぎ、興奮の「波」を穏やかにコントロールする能力を身につけます。
【簡単な実践方法】
- 毎日5〜10分、静かな場所で呼吸に集中する(腹式呼吸)
- 「今、体がどう感じているか」を言葉にせずただ観察する習慣をつける
- 性行為中に感覚が高まってきたとき、深呼吸しながら「今の感覚」を観察する(反射的に動かない)
1週間のトレーニング・スケジュール例
どこから始めればいいか迷わないよう、具体的なルーティンの例です。まずはPC筋トレーニングとスタートアンドストップ法から始め、慣れてきたらPRM法や運動を加えていくのがおすすめです。是非、参考にしてみてください。
| 曜日 | メニュー |
| 月・水・金 | PC筋トレーニング(朝晩 各10分)+スタートアンドストップ法(夜) |
| 火・木・土 | PC筋トレーニング(朝晩 各10分)+有酸素運動20〜30分 |
| 日 | 休息日(リラックスを優先)+軽いストレッチや瞑想でリセット |
慣れてきたら(4〜6週間後)、スタートアンドストップ法をPRM法に切り替えるか、組み合わせてトレーニング強度を上げましょう。また、トレーニング中は「焦らず、自分の感覚を観察する」マインドフルネスの視点を意識すると、効果が加速します。
まとめ:継続こそが早漏改善のカギ
本記事でご紹介したトレーニングのポイントを振り返ります。
- 【PC筋トレーニング】射精の「ブレーキ筋」を鍛える土台。82.5%が12週間で改善(Pastore 2014)
- 【セマンズ法(スタートアンドストップ)】脳の閾値を引き上げる。最も取り組みやすい行動療法
- 【スクイーズ法】物理的な圧迫で射精感を抑制するオプション手法
- 【PRM法(陰茎根部マスターベーション)】亀頭への刺激依存を脱する最新の行動療法
- 【有酸素運動】セロトニン系を活性化し、射精コントロール能力の土台を底上げする
- 【マインドフルネス】焦りを客観視し、自律神経の暴走を防ぐ心理的トレーニング
「すぐには結果が出ない」と感じることもあるかもしれません。しかし、神経系の再学習には時間がかかります。一般的には3ヶ月間継続することで、脳と筋肉の接続が再構築され、コントロール能力が安定してきます。Pastoreらの長期追跡研究でも、一度獲得した射精コントロール能力は2〜3年後も維持されることが示されています。
今日、寝る前のPC筋トレーニング10分から、始めてみましょう。
参考文献
- Pastore AL, et al. Pelvic floor muscle rehabilitation for patients with lifelong premature ejaculation: a novel therapeutic approach. Ther Adv Urol. 2014;6(3):83-88.
- Pastore AL, et al. Pelvic muscle floor rehabilitation as a therapeutic option in lifelong premature ejaculation: long-term outcomes. Asian J Androl. 2018.
- Ma GC, et al. Regular penis-root masturbation, a novel behavioral therapy in the treatment of primary premature ejaculation. Asian J Androl. 2019;21:631.
- Jiang M, et al. The efficacy of regular penis-root masturbation, versus Kegel exercise in the treatment of primary premature ejaculation: a quasi-randomised controlled trial. Andrologia. 2020;52(1):e13473.
- Ma GC, et al. Short-term effect of the prone masturbation training on premature ejaculation. UroPrecision. 2023.
- Regular penis-root masturbation: A promising behavioral treatment method for lifelong premature ejaculation. Prog Urol. 2023;33.
- Is There Any Association Between Regular Physical Activity and Ejaculation Time? PubMed. 2018.
- Aerobic exercise improves ejaculatory behaviors and complements dapoxetine treatment by upregulating the BDNF-5-HT duo: a pilot study in rats. PMC. 2023.
- Effects of physical exercise interventions on ejaculation control. PubMed. 2023.



